穹顶之下 under the domeを見てみた Ⅱ

chaijing
この穹顶之下under the domeですが、内容面もさることながら、政治の場面に反映させるべく全人代の直前に公開するなど、プロモーションもかなり戦略的のようです。

中国人に聞いてみると、画面上の聴衆も、ある私企業から集められたとか、柴静(写真)の背景には、環境局や環境ビジネスの各団体がつながっているとか、そういう話も当然ながらあるようです。でもまあ、ある程度は、それはしょうがないと思います。だからといって、彼女が、私利私欲の為だけに、これを制作しているような風には見えないし、それだけだと、こういう大きなことを成し遂げる原動力にはなりえないと思います。

では、続きです。



柴静/『穹頂之下』 中国のPM2.5問題ドキュメンタリー【日本語字幕】 – YouTube
日本語字幕付きの動画がありました。

石油による大気汚染ついて(動画39分)

under the dome (77)

石炭の次は、石油による汚染です。

2010年、北京だけで80万台の自動車が増えた(?)とのことですが、これは、例えていえば、北京から南の深センまで、きっちりと並べていくと、往復する距離だといいます。また北京のPM2.5のうち、一番の出所は自動車の排気ガスだということです。

ここで、1年のうち200日も汚染された霧が発生した杭州の汚染状況を引き合いに出していますが、杭州の担当者の話では「杭州は、車所有率が、中国で一番割合が高い都市であるから(所有率50%)仕方ないんだ」的な言い方をしているそうです。そこで、柴静氏は「じゃあ、車が多ければ汚染が酷くなるのか?」と、東京の例を持ち出しています。

東京の例(動画40分)

under the dome (78)
東京は北京に比べ、車の所有率は高いが、北京のように汚染がひどいという話は聞いたことがない。それは、東京は90%以上の人間が、普段は公共交通機関を利用し、通勤で車を利用するのは、たったの6%にすぎない。(という意味だと思いますが)北京は34%の人間が車を運転する。しかも、中心部では、しょっちゅう渋滞を引き起こしてる。すると、必然的に排気ガスの量は多くなってしまう。また、ちょっとした買い物でも車を使うから余計にそうなってしまうと言っています。

また、柴静氏によれば、自転車を使おうにも、車が道を占領していて自由に走れないということです。もう少し、路上駐車に対して、厳しく対処して料金をとれば、道が走りよくなるのではないかということで、ロンドンで路上駐車に対する罰金を厳しくしたところ、車が減るような例を引き合いに出したりします。
しかし、中国で同じようなことをやると、我々の同胞は駐車禁止のゾーンをさけるようにして、駐車してしまうので(下写真)意味が無いということで、このあたりが、いかにも中国人らしいです。
under the dome (80)深センにおける駐車例

深夜の幹線道路沿いを調査(北京郊外にて)(動画43分)

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次に、深夜午前零時に、PM2.5の値が、幹線道路沿いで異常に高くなる現象を引き合いにディーゼルオイル(柴油)を使用するトラックが劣悪な煙を撒き散らしていることを指摘しています。実際、延慶という北京郊外の街で調査をしたところ、そういった汚染物質を撒き散らしているトラックを取り締まることは、現実的には難しいようです。
というのも、トラック運転手らは、一応、国家による検査済みの合格証を所持しているので、ただ、劣悪な空気を撒き散らしているからといって、罰金を科すことはできないということです。
under the dome (82)
ここで、国Ⅳというのが、国家基準の中では、一番厳しい基準のようである。国Ⅲ、Ⅱ、Ⅰとなるに従って、緩くなるです。(ちなみに深センでは、4月から国Ⅴを使用し始める予定)
で、このような設備をつけてない違反車両(造假车)が、撒き散らす汚染物質の量は、通常のトラック(国Ⅳ基準)の500倍だという。
ディーゼルエンジンのトラックは全体の17%にすぎないが、劣悪な微粒子にいたっては、99%がそういったトラックによるものであるという。
しかし「トラックの運転手を処罰しようとするのは、ちょっと筋が違うのではないか?」といいます。というのも、現場の運転手自身、大気汚染の劣悪環境の最前線に立たされ、ある意味、一番の被害者であり、しかも、彼らは国家が保証する車を、自分のお金で買っているにすぎないからである。

全然、答えになっていない自動車メーカーからの返事(動画45分)

under the dome (85)
というわけで、「やはり罰せられるべきは、まずは劣悪な基準のトラックを製造している業者ではないか?」ということで、先ずは基準を違反する車(造假车)を生産している自動車メーカーに問い合わせるものの、向こうも混乱していて、まともな返答を持ち合わせていないらしく、言い訳に終始しているだけのようである。

法律的に処罰することはできないのか?(動画46分)

リコール(召回)できるか?

under the dome (86)
しかし、このような状況が長年野放しになっていることについて、環境を監督する部門は何をしていたのであろうか?取り締まるための、法律は無いのであろうか?ということで調べたところ、一応「欠陥自動車部品リコール条例(缺陷汽车产品召回管理条例)第3条」というそれっぽい法律はあるようである。
がしかし、これまで一度も使用されたことはないという。というのも「人身、財産の安全に不合理な危険がある場合になってはじめて」という文言があるため、単に漠然と汚染されているというだけでは、法律による処罰の対象としては弱いようなのだ。

破棄(销毁)できないか?

under the dome (88)
ではリコールではなく破棄(销毁)できないか?
これも「大気汚染防治法第53条」というそれっぽい法律はある。しかし、これもかつて一度も用いられたことが無いという。なぜなら、この法律を執行する部門がどこにあるかが、極めて曖昧であるからだという。執行する主体と考えられる「環境保護部」「工信部」「質検総局」の三つに問い合わせてみたが、どれも自分のところではないという。
結局、さらに上の「全国人大」に問い合わせても、結局は主体がはっきりしないということで、法律こそあれど実効力が無いに等しいというのが現状であるようだ。

気まずい(尴尬)環保 (動画47分~)

under the dome (89)
なぜ、このような状況になってしまうのか?
環境関連の各部署にインタビューしているが、担当者は以下のように述べている。
「取り締まるといったところで、合格証と車型が本物で、環境部門がすでに国Ⅳ基準のグリーンカード(緑標)まで発行しているものを、何を取り締まるというのだ?」
「もともと牙が無いのに、無理矢理、口を開けて牙をむけというのか?環保が気まずい(尴尬)のは、まさにココなんだ。(环保尴尬不就尴尬在这儿么)」

ここでの「気まずい(尴尬/ガンガー)」という概念は分かりにくいが、全体の中でキーワードにもなっている。要するに、環境部門には、そういった指導力、権限を発揮しようにも、発揮しようが無いという感じで、おそらく、現場の運転手、製造業者等管理される側からも、そういったことを見透かされているのだろう。

メーカーも気まずい?

気まずい(尴尬)ことは、そういった車を作っているメーカー側もそうで、彼らの言い分はこうである。
「そういった行政の取締りが本当であれば、明日から必ず基準を満たす車を作るが、でなければ、自分の会社だけ本当の車を製造して、別の会社はニセモノを作るというのでは割りにあわない。」
また「たとえ基準を満たした車を作ったところで、肝心のガソリン等の質が悪ければ意味が無い。」とも言ってます。
自分のことは棚に上げて、勝手なことばかり言ってますが、まあ彼らの行動規範は所詮「上に政策があれば下に対策あり(上有政策下有对策)」なので、しっかりした企業倫理観を持てといったところで、土台無理な話です。悪い言葉で言えば、金銭的に損か得か?しか考えていない人種です。

ガソリンの品質を上げることは可能か?(動画49分)

under the dome (169)
ディーゼルエンジン(柴油)は、北京のものが国内では一番品質がいいが、それでも先進国のものに比較すると、不純物が25倍も含まれているという。ガソリン(汽油)も似たり寄ったりであるようだ。
ただ、1つ等級が上がるごとに、汚染物質の排出量は10%減少するという。ガソリンの品質を上げることはできないのであろうか?

石油価格は、我々(環保)ではなく石油会社が決めるんです(動画51分)

under the dome (91)
環保局のメガネの男性(写真)によれば、油の品質を決定する「大(小)標委」という団体のほとんどが石油化学業界からの人間であるという。環保部は、その決定を否決する権利も無いとのこと。
自分たちには出番が無い。敗北感半端ない感じのメガネ主任。

また発改委(国家発展改革委員会)(音声のみ)という部署も同様で、石油会社は、腕白すぎて手に負えない子供のようなものだという。ということで、結局、石油化学業界の人間に、直接尋ねるしかなさそうである。

確かに太っている。が畢竟、水太りにすぎない (動画53分)

under the dome (99)
中石化(シノペック)の元エンジニア氏ですが、先ず「石油の精製を理解できない人間は、価格の基準の設定にかかわるべきではない。環境局の人間では、そのあたりがわからないから。」とことわった上で
「基準を決定する過程を外部に公開することは、やぶさかではないが、ランクアップ(昇級)に関するコストは非公開にすべき。というのも、現在、中石化、中石油に対する社会の不信感が高いので、その辺りの数字を出しても信頼感が無く、言わないほうがまだマシ」とのこと。?よくわからな論理であるが・・・
また「政府の深化改革については、別に否定はしておらず、石油業界については、独占状態ではなく、徐々に自由化していくということに異論は無い。」といっている。
最後に「中石化(シノペック)ほどの大企業が、もっと社会的な責任を負うことが出来ないのか?」という問いに対しては「中石化は確かに巨大である。太っているが畢竟、水太り(虚胖)にすぎない。」といってます。
「水太り(虚胖)」というのは、かなり含みのある言い方です。

柴静氏はこう続けます。国有とはいえ石油会社も会社であるのだから、私利を追求することをとやかく言われる筋合いは無いと。つまり、この巨大企業だけにすべての責任をかぶせることも、やはり無理があるし、そんなに単純ではないということでしょうか。

どうして中国では、石油業界が基準を作っているのか?(動画56分~)

under the dome (122)
他の国では、石油の品質を決定するのは、環境局であるのに、どうして中国では国有の石油会社なのか?
これは、中国の歴史的事情があるようだ。前世紀60年代、中国では石油が非常に欠乏していたが、当時は、石油部の下の石油化工科学研究院というところが価格を決定していたという。しかし、1983年石油部が無くなるや、その部門が国有企業である「中石化」の傘下に配属となったという過程があるようである。ここにおいて、国家の機能が、国有とはいえ、一介の私企業に任せられたということである。
ただ、今日、オイルの価格決定をする「標委」の委員は、非石油部門の委員も徐々にではあるが増えつつあるという。

その他の汚染源(動画58分)

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自動車以外、港湾や空港といったところから排出される汚染も、自動車に負けず劣らずすごいとのこと。しかも、それらは、コントロール不能だといってます。特に、世界の10大港のうち、7つは中国にあるが、船から排出される、汚染された大気は甚大だという。(例えば、深センの二酸化硫黄の60%は船からの汚染だという。)

また、田舎の道を走っている、すごい煙を出して走っている車を発見して、後ろをつけていって、その車が給油するガソリンスタンドの老板(社長)に、抜き打ち調査をしに来た旨を伝えるや、何だかんだと言い訳をして、おっさん(写真)は、なかなか、調査に応じようとせず、結局、煙に巻いてしまったようです。しかし、このおっさんのうろたえぶりが、すごいものがありましたが。

結局、オイルに関して言えば、「消費量が莫大」「劣悪な品質」「清掃の欠如」「排出をコントロール不能」という四重苦に瀕しているという。

結局のところ

〇汚染企業を取り締まることが出来ない。
〇法律は存在するが、文言が曖昧すぎて、リコールや破棄ができない。
〇ガソリンの品質は、石油会社主導で決定するので、品質がなかなか上がらない。
〇ガソリンの品質を検査する権利も無い。

ここで再度、「環保が気まずさは、まさにここにある(环保尴尬不就尴尬在这儿么)」という風に、気まずい(尴尬)という言葉で、一旦しめています。要するに、環境局には、権利がないということなんでしょう。
柴静氏の知り合い?で、10年前に希望に燃えて環保部に入った人が「今では、自分は職場のマスコット(吉祥物)に成り下がってしまっている」と嘆いているそうです。

政府の飼い猫には手が出せない?(動画1時間02分)

under the dome (168)
その後、地方(孝義村?)の人間だと思いますが、工場の責任者、環境局、市長、等にインタビューしますが、環境意識ゼロ発言のオンパレードで柴静氏があきれているような、そんな印象です。工場の汚水に対して「自分は鼻が悪いので、それほど感じない。」とぬけぬけといってるのもいます。
あと環境局の人が、そういった地方の工場は、地方政府の飼い猫のようなもので、環境局が手出し出来ないのだとも言ってます。中国では、地方政府と企業の癒着振りもすごいので、中央がコントロールしきれないという難しさもありますね。

空気はお金のにおいがする?(動画1時間03分)

under the dome (112)

鉄鋼1トン100元、石炭1トン156元、石油1トン燃焼、トラック1台20000元、オイルの品質を1ランク上昇で500億元
これは、環境保全用の設備を設置しなければ、それぞれ、それだけの金額が省ける。つまり、その分が会社の利益になるということです。会社側は、環境に配慮すればするほど、損をすることになるので、設置しないか、あるいは、設置したとしても使用しないわけです。
万一訴えられたら、その時に、罰金を払ったほうが得だくらいにしか考えていないし、実際、そのほうがお得なんだと思います。

柴静氏が「空気は、お金のにおいがする」という結論を得たといってます。

さらに以前、彼女がある地方へ取材に行ったとき、当地の書記が「汚染状況を見事にコントロールしているのを是非、取材しに来てれ!」というので、行ってみると、その書記は大変満足して「小柴さんや(笑)よくぞ来てくれた。これは、あなた方の為に壊すんですよ。」といいつつ煙突等を取り壊したのであるが、3年後、同じ場所へ行ってみると、以前よりももっと大規模な工場を建設しているという。しかも聞けば、環境装置はつけているものの、一度も使用したことがないのだという。

「環保」「環保」と声高に叫んでみたところで、実情こんなもんだというわけです。

私見

大気汚染の問題というのは、構造的な問題であって、中国の社会や産業構造と密接に結びついているので、容易には解決できない問題のようですね。調査していけば行くほど、解決不能なことのように見えてきます。
結局、人間、短期的な私利私欲を優先させてしまいやすいですから、環境汚染という、具体的な損害が無くかつ長期的な観点を要する問題に対しては、あまり深く考えないということなんでしょうね。中国人には、特にそういった、傾向が強いような気がします。

穹顶之下 under the domeを見てみた Ⅲに続く

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