中国少数民族 トン族(侗族)のポリフォニー

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これまで、中国のことを色々、書いてきたが、それは、漢字や中国語を中心とする漢民族の話であって、もう一つの中国である、少数民族のことがすっぽりと、抜け落ちていたのに、最近、気がついた。というわけで、ここ最近、中国の少数民族について、ちょっと調べている。

とはいえ、いかんせん、中国の少数民族は55もあり、しかも、奥が深すぎるので、何をどう語ればいいのか、さっぱりわからないのであるが、とりあえず、自分が興味をもったものを中心に紹介してみたい。

以下、手始めに、中国少数民族の一つ、トン族(侗族)の「グランドソング(侗族大歌)」と呼ばれるポリフォニーを紹介してみる。

中国少数民族 トン族グランドソング(侗族大歌)

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その歌声と概要


Grand song of the Dong ethnic group – YouTube 英語

YouTube見れない方は、こちらで少しだけ。動画のあげ方が悪いのか、音声だけ。

中国少数民族のトン族(侗族)は、貴州省、湖南省、広西省の三つの省が交わった山間部に、居住する民族で、この動画で出てくる、貴州省黎平肇興という村は、トン族を代表する村のようである。

以下、村落であるが、黒い瓦屋根の木造家屋の中に、塔が立っている様子は、戦前の京都あたりのたたずまいを彷彿させるものがある。
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民族衣装を身にまとった女たちが、古い祠のなか、焚き火の廻りに腰をかけ、歌を歌う。楽譜も指揮者もなく、ソプラノとその他大勢の低音パートという構成で、歌は自然に進行していく。
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トン族の民族衣装は、独特の光沢のある、黒に近い紫色の上着に、女子の場合は、服に刺繍を入れたり、髪飾りをつけたり、銀のネックレスを何重にもかけたり、非常におしゃれである。なにか宗教的な意味合いもあるのかもしれない。
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人が集まれば、もうひとりでに、歌が始まる。生活の中に歌が根付いているといった感じ。
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トン族の子供は、学校でも民族衣装を着用。中国の一般学生は、皆、ジャージであることを考えれば、かなり、おしゃれである。
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トン族の合唱団は、その後、TVにも出演。その知名度は、どんどんあがっていく。2009年には、ユネスコから、無形文化遺産に登録される。
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この村は、かなり有名な村であるらしく、観光客も、どんどんやってくるようだ。さらに、歌を歌えば、「好観、好観(ハオカン)」「ワンダフル!!」と、賞賛される。
しかし、そんな賞賛にも、うれしがってばかりもいられないようで、これまで、何百年と、世代から世代へと、連綿と受け継がれてきた、トン族の声楽も、やはり現代化の波で、後継者が、少なくなってきたようである。そこで、伝統を守るべく、各村落から、子供たちを集めて、定期的に、コンテストや催しを開いては、後継者の育成に努めているようである。
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世代から世代へ 資産をどう受け継いでいくか? 各人の取り組み


指尖上的传承 第三集 侗族大歌(Dong song) – YouTube (中国語、中文字幕)

トン族に限らず、今の中国少数民族は、漢族との同化によって、民族の言葉が絶滅の危機を迎えているというケースが結構、多い。そういう危機感から、次世代に向かって、民族固有の文化を伝えていこうという民族復興の潮流が、一方であるようだ。上の動画であるが、トン族の人々が、歌をどのように、伝承しようとしているかが、よくわかる内容となっている。トン族の歌に関わる人々が、それぞれの視点から語っている。

場所は、貴州省从江県小黄村という「トン族の歌の故郷」とも呼ばれている村落。冒頭、歌師である「潘萨銀花」(左)というおばあさんが、子供に、歌を教えている。歌師は、40歳以上ではじめてなれる職業で、一定の資格を備えた人のようである。あと、「潘萨」というのは、珍しい名前だが、トン族固有の名前なのかもしれない。
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トン族の歌い手になるには、小さい頃から訓練をはじめななければ、ならない。動画の中の子供は、すでに4―5年練習をしているが、それでも、歌師の要求の水準に達していないようで、先生は満足していない様子である。しかし、あまり厳しくしすぎると、子供が自信をなくしてしまうので、そのあたりのさじ加減が難しいという。

歌師にいわせると、トン族の歌は、ショーやコンテストの類ではなく、トン族の伝統を伝える活動なのだという。今は、動画などもあるので、表面的には、誰でもまねることは可能である。しかし、歌詞には、民族の歴史、物語、英知といったものが織り込まれているはずであるから、その内容を伝承しなければ、民族としては、意味がないのである。
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また、村落で、一、二を争う、歌い手である(美蘭)は、近頃、故郷の村にもどってきたが、都会の生活にはもう未練がないのだという。都会で行われるコンサートに参加するよりも、今は、地元で、もっと知らない歌を聴いて、歌のレパートリーを増やしたいのだという。
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一方、八十歳になる歌師、贾福英は、その豊富な歌の知識から、村人の尊敬を集めているが、近頃、自分の記憶の中にある、大量の歌を、後の世代に伝えるために、トン語の歌詞を、漢字を使って書いているという。トン語には、カナがないから、そうするより他ないのであるが、感覚的には、日本人が、アルファベットを使って、ローマ字で日本語の歌詞を書くというような感覚だと思う。民族固有の文字がないというのは、要するにそういうことである。
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また、歌が、男女の仲を取り持つこともある。ある内気な青年(小潘) は、意中の女性がいるのだが、拒絶されるのを恐れて、なかなか思いを伝えられないでいる。
ある時、意を決して、その女性のところへ行く決心をするが、その後が面白い。いきなり森の中に入って、木を切って、牛腿琴という、トン族特有の楽器を自らの手で作り、さらに彼女のところにおもむいて、自作の歌を披露する。彼女からの反応は、まずまずだったようだ。
自分で、楽器を作って、さらにそれを弾きながら、彼女の前で歌を歌うって、どんだけ優雅な民族なんだろうか。愛を語るにしても、いろいろな形があるものである。
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日本では、能とか歌舞伎は、もはや、一部の家が、代々伝承する特殊な芸能となっているが、トン族の歌は、たぶんそういうものではないのだろう。トン族の俗語で「飯は身体を養い、歌は心を養う(飯養身歌養心)」という諺があるという。現代人にとって、音楽や歌は、娯楽や芸術であるが、彼らにとって、音楽や歌は、生活そのものである。

鼓楼について

トン族といえば、やはり、あのなんとも不思議な形をした「鼓楼」だろうか。村には、いくつか、こういう鼓楼があり、村落の象徴的存在となっている。また、鼓楼を中心とする広場は、誰もが利用できる公共空間であり、重要なイベントや歌の催しが行われる場所でもある。
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塔は、釘を一本も使わずに、建築されている。建て方も、日本の宮大工のような職工によって、伝統的な工法で組み立てられていく。そして、その技術も、歌と同様、口から口へ伝承されてきたと言うことである。
ただ、近年になって、宮大工の師匠によって、その設計図が、書籍として、まとめられるようになったとのことである。
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動画には登場しないが、それ以外にも、「風雨橋」も有名で、広西三江にある「程陽永済橋」は現在世界遺産に登録申請中である。
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高床式家屋について

あと、トン族の家屋は、高床式になっており、町全体が、非常に風情のある景観になっている。何か時代劇のセットのような雰囲気すら漂っている。景観風致地区になっていて、建物の規制が厳しいのかもしれない。
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民族衣装の染め(染布)

トン族の人々が、老若男女問わず、まとっている民族衣装は、彼らの象徴的存在であり、これもまた、伝承文化の一つである。
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冬の農作業が無い時期は、新しい服を作る季節となっている。トン族の居住地区は、山深い土地なので交通は不便であるから、素材はすべて、自前のものである。亮布(リャンブ)という布を、藍の汁の中につけ、さらにそれを干す、そして叩く。一連の工程を何度も繰りかえすと、その独特の光沢のある深い紫色がでてくる。
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冒頭の、歌師のおばあさんと女の子が一緒に、布を染めているが、おばあさんは、「トン族の歌を歌い、この衣服に袖を通さなければ、トン族というのは消失してしまう」という。この民族衣装もまた、トン族のアイデンティティの一つなのであろう。
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トン族(侗族) その他、資料

人口

288万人(2010年人口調査)
トン族は、実は、中国の少数民族の中でも、かなり人口は多いほうである。(少数民族中、10番目)ということは、動画で紹介したのと、同じような村が、あと数百はあるということになるが、あるいは、都市部に出てしまっていて、漢族と同化してしまっている人たちも、相当多いのかもしれない。動画で出てくる村落は、伝統というものを、かなり忠実に守っていて、保存状態がいいということで、紹介されているのだろう。

居住地

トン族は、貴州、湖南、広西の三つの省の、交わったところに分布している。
以下は、動画にでてきた村のある、貴州省黎平(リーピン) 
小黄(从江県)もこのあたり

言語

トン語(タイ・カダイ語族)
独自の文字はない。したがって、歌詞を残すには、漢字の音を当てて書くとか、しかない。このあたりは、他の少数民族も同じで、独自の文字を持っていない民族は多い。

少数民族ではないが、このあたりに近い、桂林の中国人が、桂林語で話しているのを聞いたことがあるが、かなりすさまじいというか、自分だけではなく、中国人の同僚が聞き取れないほどで、オフィスで笑いが漏れていたくらいであった。
トン語も、それに近いとすれば、やはり中国語とは、かなり異質な言葉なのかもしれない。単なる、推測であるが・・・・

宗教

トン族は、アニミズムというか、自然崇拝というか、あらゆるものに神が潜んでいるという考え方をもっているようである。

ウィキペディア

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